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最高裁判所第一小法廷 昭和39年(オ)1291号 判決 1966年3月31日

上告人

山本露子

右訴訟代理人

桂秀威

被上告人

浅野巧

被上告人

浅野ヤサ

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

上告代理人桂秀威の上告理由第一点について。

事件を地方裁判所本庁において審理するか或は支部において審理するかは、地方裁判所内部の事務分配に関する事項であつて、訴訟法上の管轄の問題ではないから、公正証書を債務名義とする請求異誇訴訟における債務者が地方裁判所支部の管轄区域内に住所を有する場合に、当該地方裁判所本庁に対して右訴訟提起の手続をなし、これに基づいて審理判決がなされたからといつて、所論のように専属管轄に違背したものということはできない。論旨は採り得ない。

同第二点について。

被上告人浅野ヤサが上告人に対して昭和三〇年一二月三一日及び同三一年三月一九日になした弁済において、訴外大野ギンがその支払を受けたとのことは、原審の認定しないところであり、右弁済は上告人の代理人である訴外大野辰蔵に支払われた旨の原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できないことはない。従って、原判決には所論違法は認められないから、論旨は採用できない。

同第三点及び第四点について。

被上告人らは本訴において、被上告人らは上告人との間の本件消費貸借契約上の元利金及び遅延損害金を超過して上告人に弁済したと主張し、右超過部分につき不当利得返還を求めているのであり、右利息及び遅延損害金の約定利率は被上告人において請求原因として主張立証すべきものであるから、上告人において右約定利率に関する主張を富めた以上、これをもつて自白があつたものというに何ら妨げなく、従つて、その後上告人が原審において右約定利率を否認し別個の約定利率の存在を主張するに至つたことは、自白の撤回にあたるものと解するのが相当である。しかし、右自白が真実に反し上告人の錯誤によるものと認むべき証拠がないから、右自白の撤回は許されないとした原審の認定判断は正当であつて、原判決には所論違法は存しない。それ故、論旨は採用できない。

同第五点について。

上告人が原審において提出した証掟申出書の記載によれば、上告人は本件消費貸借契約の内容を立証するため、所論小田島一郎及び被上告人浅野巧本人の尋問を求めていることが明らかであり、原審は右被上告人本人につきその申出を採用してこれを取調べているのであつて、所論のように上告人の自白が真美に反し錯誤に基づくものであつたことを立証すべき唯一の証拠を却下した場合にあたるものとは認められない。そして、右自白が真実に反し錯誤に基づいたものとは認められない旨の原審の判断が首肯するに足ることは、論旨第三点及び第四点について説示したとおりであるから、原判決には所論違法はなく、論旨は採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(長部謹書 入江俊郎 松田二郎 岩田誠)

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